父と母と夫と私


最近、父とよくメールをするようになった。
仕事の都合でインドネシアにいる父とは(まぁ、日本にいてもなんだけど)、母を通して会話することが多く、あんまり直接コミュニケーションをとる機会がなかったように思う。
1つは単身赴任や出張で父があまり家にいなかったこともあるが、私も娘として父とどう接したらいいのか、そしておそらく父も娘とどう接したらいいのかがよく分かってなかったのではないか、と最近思うようになった。



父も母も子どもができたと分かったときから、「男の子が欲しい!」と思っていたらしい。
特に母には「男の子が生まれたらプロ野球の選手にしたい」みたいな夢があったみたいで、よくそんな話を聞かされた。
ちなみに母の姉つまり私の伯母は女の子が欲しかったらしいが、子どもは3人とも男の子なので、男の子が欲しかった母は、
「うまくいかないもんよねぇ」
と、よく言っていた。


母は別に何か深い意味があって言っていたわけではないと思うが、それを聞くたびに私は、


「あ〜、なんで女の子に生まれてきてしもたんやろ」


と心のどこかで思っていた。


なので、女の子らしいふりふりの洋服を着たり、髪にリボンを結んでみたりすることに、ものすごく罪悪感を抱いていた。
罪悪感っていうのかなぁ。
「してはいけないこと」のように感じていたんだと思う。


かと言って、もともと体力がなかったり、日光が苦手だったりするため、父とキャッチボールをしたりキャンプに行ったり、母とラジコンカーで遊んだりすることもできず、女の子らしく振舞いたくはないけど、男の子のように遊ぶこともできない自分に苛立ちを感じることもあった。


そうやってだんだん大きくなってくると、父親と「かわいい娘」として接することができなくなっていった。
別にそのままの自分でいればよかったんだろうけど、まだ若かった私は父の「女の子やのになぁ」というような発言に対して過敏に反応して、苛立ったり焦ったりして、ますますどうすればいいのか分からない、といった状態になっていった。


母とは一緒にいる時間が長かったので、それほどコミュニケーションをとる上で悩んだりしたことはないが、でもやっぱり「女の子」な部分を出すことに抵抗は感じていた。
大学進学の際に、理系に進むか文系に進むかで悩んだときも、化学も語学もどっちも好きだから決められないという気持ちのほかに、理系に進まなかったら母にがっかりされるんじゃないかなぁという思いが全くなかったわけではない。
でも最後の最後で理工学部に進むか、外大に行くかで迷ったとき、私は外大へ進学することを選んだ。
そのあたりから自分で勝手に思い込んでいた「父や母が望んでいるだろう自分」と「実際の自分」との間に折り合いをつけられるようになってきたんだと思う。


今思うと、別に父も母も女の子である私にがっかりしていたわけでは決してないだろうし、私が理系に進もうが文系に進もうが、自分の好きな道に行けばいいと思っていてくれたに違いないと思う。
私がふりふりの服を着たって、眉を細くして化粧をしたって、「なんでそんなことするんだ!」なんて言われなかった。
ただただ自分で勝手に「女の子らしくすることはいけないことだ」と思い込んでいたんだと思う。


父と母は私にこうなってほしいと思っているに違いない。
でも私はそうなれない。


そんなジレンマに勝手に陥って、もがいていたんだと思う。


そんな中でのコミュニケーション不足や誤解の積み重ねで、私は父とあんまりうまくコミュニケーションがとれなくなっていった。
何を話していいのか分からないし、どう話していけばいいのかも分からなかった。


でも、それが夫と結婚したことによって少しずつ変わってきたように思う。
父も母も「息子ができた」ということが嬉しいらしく、夫がうちに来ることを喜んでいるようだし、父も夫と一緒に食事をしているときなど、普段よりよく話す。
夫はとても優しくて、人の気持ちを感じ取るのがうまい人なので、父と母と私の間の潤滑油のような役割をしてくれているのかもしれない。


口数の少ない父が何を考えているのか、何を思っているのかよく分からないとイライラすることも多かったけど、夫が「お父さんはきっとこう思ってくれてはるんやで」と通訳(笑)してくれるようになってから、以前よりは「父はどう思っているのかな?」と考える余裕ができてきた。
「がっちりしてるしスカートは似合わないから苦手」と思っていたけど、たまにスカートをはいたりすると夫がほめてくれるので、「スカートはいてみてもいいかな」と思えるようになってきた。
そんな小さな変化が自分の中に生まれてきたのを感じる。


うちの家族が仲良くなかったわけでもないし、父や母のことを嫌いだと思っていたわけでは決してないんだけど、私が家族の前では頑なに閉ざしていた部分が夫と一緒にいることによって、少しずつ開けるようになっていったんだと思う。


そんな変化をくれた夫に、とても感謝しているし、この人と結婚してよかったと思っている。


そして、これから少しずつ「もっと分かってよ!」と甘えてばっかりだった父や母に、ちゃんと一人の大人として向き合えるように努力していきたいなぁと思う。
なんて言ってても、つい甘ったれになってしまうんだけどね(^^;)


そんなことに今まで気づけなかった自分を恥ずかしくも思うけど、でもずっと気づけなかったよりはいっかな、と前向きに努力していきます。